「応天の門」 菅原道真はホームズ?

主な登場人物

「応天の門」の主人公道真は、18歳。「理」で考え謎を解くホームズ役。周囲の誰もが認める秀才ですが、とても社交的とはいえぬ平安版引きこもり文章生。何もかも理知で通すかと思いきや、意外に人情派だったりする若者のアンバランスさも魅力です。道真はやがて人と関わり政の世界へと進むことになります。

ホームズと道真の共通点は?

偉大なる探偵として知られるシャーロック・ホームズは、性格は極めて冷静沈着。行動力に富み、いざ現場に行けば地面を這ってでも事件の一端を逃すまいと血気盛んになる活動家。日本武術、ボクシング、フェンシングが得意。人物評においては辛辣であり、ホームズは女性嫌い。毒物学に詳しい。彼の多才な能力はそのまま犯罪に使うこともできるため、彼が犯罪者になっていたら大変危険、という人物。

では道真は?性格は冷静沈着だが、若いゆえに血気に逸るところあり。行動力はなく、家でずっと書を読んでいたいタイプ。弓道が得意で百発百中だったと「北野天神縁起絵巻」にある。また馬術も得意だった。人物評は辛辣。理に適わぬことが嫌い、不正が嫌い。だが、物事には帳尻を合わせるという感覚も大事だと、少しずつ分かってくる。女性は興味がない。許婚の宣来子はちゃんと受け入れているし、女嫌いではない? 書からの知識は多方面に渡り、植物、毒薬、火薬などの知識もある。兄弟子・忠臣のように、彼も犯罪者になったら危険なタイプ。

道長は若くして多くの人からその「才」を見出され、彼のために道を譲り、身を引いていった者たちもいます。彼の才はある意味「磁力」のようなもの。では彼の磁力に引き寄せられた人たちとは?

兄・吉祥丸

阿呼(道真の幼名)は年の離れた兄・吉祥丸に可愛がられ、優しい兄のそばを離れたがらないような子供でした。兄が亡くなった時、自分が遠ざけられたのは、兄に嫌われたせいだ傷つき記憶を封印していましたが、妖しい香「反魂香」によって記憶がよみがえります。そして兄が無残な死を遂げざるを得なかったのは、藤原家のせいだと思いいたるのでした。

政治にはかかわりたくない、藤原にも伴にもかかわるまいと思うのですが、彼の才は隠しきれるものではなく、否応もなく権力闘争の渦に巻き込まれて行きます…。

吉祥丸は菅家、そして弟・阿呼を護ろうと必死でした。たった一度の基経との出会い、それも物語に大きな影を落としています。

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兄弟子・島田忠臣

島田忠臣は父・是善の弟子であり、道真のお守り役でもあった兄弟子。幼い阿呼の才にいち早く気付き、その才に怯えた、とも言えるかもしれません。菅家の後継者への道を捨て、学者ではなく才を活かして基経の片腕となって生きることを選んだのも、道真という存在があったからでしょう。

史実的には、師であり義父である島田忠臣とは生涯に亘って交流があり、忠臣が死去した際に道真は「今後再びあのように詩人の実を備えた人物は現れまい」と嘆き悲しんだそうです。

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在原業平との出会い

まず彼の才に惹かれたのが、在原業平。朝廷を掌握している藤原北家の恐ろしさを知る業平は道真に「藤原の逆らうことは、帝に叛するもおなじ。最後には正しい者が勝つと、本気で思っているんじゃないだろうな?」と、道真の若さを揶揄します。「こんな理不尽がまかり通るなんて吐きそうだ」と応じる道真。この二人がコンビになるんですから不思議。

業平は道真の才を、正しく使って欲しいと願っているんだと思います。政に、人に利用されないためには、力を持つことだと言うのが、道真へのアドバイス。

史実的には、在原業平とは親交が深く、当時遊女(あそびめ)らで賑わった京都大山崎を、たびたび訪れているそう。忠臣とは異なる方面の師ですね(笑)。

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藤原基経との出会い

そして、やはりその才に目を光らせているのが、藤原基経。実の妹・高子はむろんのこと、あらゆるものを権力掌握のための道具とする怜悧で冷酷な人物です。若く才ある道真に並々ならぬ関心を寄せる危険人物です。この人の目が怖い…

自分の懐刀である島田忠臣の弟子である道真、そのきらめく才能の持つ魅力と危険を、最もよく知る人物なのかもしれませんが…。そして兄・吉祥丸との関わりも。

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伴善男との出会い

そして反藤原のトップ・伴善男もまた、基経に毒を盛られ瀕死の状態を救ってくれた道真の才に、強く惹かれていきます。伴善男の命が助かれば伴氏に、助からなければ藤原氏に、どちらかに与することになるかもしれない、そう思いながらも「命の責任なら今までと同じ」と腹をくくる道真。権力の狭間で中立でいることほど、難しいものはない…。

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藤原常行との出会い

さらにもう一人、藤原常行。百鬼夜行の正体に気づき、道真に深入りをするなと釘をさしに来ます。「お前は頭がいい。目もいい。だが夜目が利きすぎると余計なものまで見てしまうぞ」 彼もまた藤原北家の権力の中で、このことを肝に銘じておかねば危うい身なのですが、しかしやはり藤原の冷酷さは身についている感じです。

妹・多美子のために知恵を出してくれたのは道真だと気づいていて、「知恵のある子鬼」と業平に言っています。

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伴中庸との出会い

どうにも頼りないのがこちら、伴中庸。何かの企てがあると察知しながらも、ただ気弱な感じで右往左往。道真の才を見込んだのか、その白黒はっきりいう態度に惹かれたのか。どう見ても父・伴善男の迫力には及びもつかない青二才という感じですが、道真を渦の中へ引きずり込んでいく役どころ。「応天門の変」でどういう立ち回りを演じさせられることになるのか、見どころですね。

道真を案じて父・是善は藤原には「かかわるな」と言いましたが、「隠そうとしたとて才はいずれ世に出てしまうもの。仕方のないことよ…」とも。知っていることだけでは何の役にも立たないこと、良い考えがあっても力がなければ何もできぬこと、この二つを徐々に学び、やがて政の道に踏み込んでいくことになる道真の前に、この面々はこの先どう絡んでくるのか? 

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源能有との出会い

大納言・伴善男の縁者、先帝・文徳天皇の皇子であり、臣籍降下した人物。道真と同じ歳ながら「能ある鷹は爪隠す」的に、悪目立ちせぬよう生き延びることを考えています。道真の才に惹かれ、彼の政に利用されたくないという考えには理解を示します。しかし20年後の自分の有り様を思い描き、その時名を呼ばれたら、己の力を活かしたいと考えている、おおらかで有能な人物です。

後に道真とともに、清和天皇、宇多天皇の政務を補佐していくことになります。

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史実における道真

845年 6月25日生 幼名・阿呼
862年17歳文章生
867年22歳文章得業生
870年25歳対策及第(正六位上)
877年32歳文章博士
891年46歳蔵人頭(正五位下) 藤原基経薨御
893年48歳参議 従四位下
894年49歳兼遣唐大使・侍従
895年50歳権中納言(従三位)
897年52歳権大納言(正三位) 醍醐天皇即位
899年54歳右大臣
901年55歳大宰府左遷(従二位)
903年57歳2月25日薨御
923年没後20年贈右大臣(正二位)
993年没後90年贈正一位左大臣 贈太政大臣

基経が亡くなると、藤原系統ではなかった宇多天皇が、道真を重用し一気に官位を挙げ出世が始まりました。そして藤原の庇護下にあった醍醐天皇即位によって、今度は情勢が逆転、時平の讒言により大宰府左遷。失意のうちに亡くなります。

道真の死後、京の都では異変が続出します。まず彼を死に追いやった時平が6年後に39歳の若さで死去、都では旱魃や飢饉が続きました。さらに死後20年後の923年に、皇太子の保明親王が亡くなり、誰もが道真の怨念のせいだと信じました。930年には左遷を認めた醍醐天皇までもが急死し、怨霊は「御霊」と呼ばれるようになり、恐怖が貴族たちに広がりました。

そこで、霊を鎮めるための御霊会が始まります。これは次第に公のものとなり947年には、京都の北野に神殿が建てられ天満天神として奉られました。ですが、時代を経るにしたがって、怨霊は人々によって別の解釈がされるようになっていきます。菅原氏が多くの学者を輩出したこともあり、学問の神様に変化してったのです。

さらに、それは発展し書道や文学の神様としても崇められるようになります。神様は皮肉にも道真の怨念を鎮めようとした藤原氏によって作り出され、その後没落していく藤原氏とは対照的に、波乱の人生を歩んだ道真は、1000年以上の時の中を生き続け、21世紀の現代でも学問の神様として祀られています。

さまざまな伝承

これほどにエピソードの多い人物は、他に類を見ないかも。歌舞伎の題材にもなってるくらいですし。以下、【応天の門】に関連する人たちとのエピソードを中心に、ウィキペディアからの抜粋をご紹介します。

・師であり義父である島田忠臣とは生涯に亘って交流があり、忠臣が死去した際に道真は「今後再びあのように詩人の実を備えた人物は現れまい」と嘆き悲しんだという。

・紀長谷雄とは旧知の仲で、試験を受ける際に道真に勉学を師事したとされる。道真は死の直前に大宰府での詩をまとめた「菅家後集」を長谷雄に贈ったとされ、道真の妻を逃がしたという伝承もある。また、『扶桑略記』によれば、百人一首の舞台として有名な宇多天皇御一行遊覧の際に、長谷雄を求めて叫んだほど長谷雄への信頼があった、と同時に宇多天皇厚遇の時期であっても道真が孤独だったことがわかる。

・在原業平とは親交が深く、当時遊女(あそびめ)らで賑わった京都大山崎を、たびたび訪れている。

・梅ヶ枝餅とカレイと醤油ご飯が好物だったという伝承がある。他に、甘い物が貴重だった頃、柿を庶民に普及したという言い伝えも残っている。

・茶に関する故実を調査・研究し、世間に喫茶の習慣を広めたため、茶聖菅公と称されたという。

・乗馬を好み、通勤は馬でおこない、讃岐での遠出や右近の馬場での桜狩りなど、趣味でも馬を走らせていたという。のちに、天神乗りという騎乗法が伝わり、馬術の師として祀られることになる。

・学問だけでなく、武芸(弓道)にも優れ、若い頃は都良香邸で矢を射れば百発百中だったという伝承がある。また、大蛇に苦しめられたため自ら矢で射て退治したという逸話もある。

・宝剣「天國」、宝刀「神息」、神刀「猫丸」/脇差「小猫丸」、毛抜形太刀〈無銘/〉、菅公御佩用の御太刀、銀の太刀など様々な太刀を常に佩刀していたという。また、河童の大将や大鯰を斬り殺したという逸話も残っている。刀工として古代の名工の一人に数えられている。

・子はおよそ23人、またはそれ以上に上るとされ、長男高視が産まれる以前の、文章得業生の頃には既に子があったという。

・17歳で清水寺に参拝したさい、田口春音という捨子を拾い養育したという。春音は大宰府まで同行し、道真逝去後は出家し、道真の菩提を弔ったという

・おとぎ話『桃太郎』は、道真が讃岐守に就いていた時分に、当地に伝わる昔話をもとに作り上げ、それを各地に伝えた、という伝説が女木島に伝わっている。

・また、『竹取物語』の竹取の翁の名が「讃岐造」であること、自身の神秘的な出生にまつわる伝承から道真が作者ではないかという説がある。(紀長谷雄が作者だとする説もあります)

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