漫画【応天の門】は平安時代に起きた「応天門の変」を背景にしています。そのキーパーソンが大納言・伴善男。策謀家だった彼は、自らの策に溺れてしまうことに。漫画【応天の門】では、今まさに良房が流行り病に罹り、摂政への道筋をつけるところ(14巻)。これから左大臣・源信が、藤原・伴両方から狙い撃ちにされ、勢力がそがれていく局面に進みそうですね。
万葉歌人を生んだ大伴氏
伴善男の先祖は、大伴氏。古墳時代、天皇の第一側近だった豪族です。天孫降臨の時に先導を行った天忍日命の子孫とされる天神系氏族で、ヤマト王権で台頭し勢力を伸ばしましたが、物部氏から失政をとがめられ失脚。以降は蘇我氏と物部氏の対立の時代に入ります。
飛鳥時代から奈良時代にかけて、大化の改新、壬申の乱に功績を立て、大納言まで昇った大伴御行・大伴安麻呂・大伴旅人以下、多数の公卿を輩出しています。また大伴安麻呂・大伴旅人・大伴家持・大伴坂上郎女など素晴らしい万葉歌人がいます。
大伴氏の没落はこうして始まった
ですが奈良時代から平安時代前期にかけ、大伴氏は衰退。その原因は政変に関与して、処罰者が多く出たことです。ここに既に伴善男の姿がチラ見え。ご先祖様と同じ道を歩むことになったわけですが…。ここで大伴氏(のちに伴氏と改名)の関わった政変と、その失脚の道筋を追ってみます。
長屋王の変 729年
727年、聖武天皇とその妃の藤原光明子に念願の男皇子が生まれ、わずか一ヶ月で皇太子となります。天皇と藤原氏との結びつきを強めたい藤原氏によって計画された出来事でしが、この皇子は翌年に夭折してしまいます。
乳飲み子を皇太子にするという暴挙は、藤原氏をよく思わない人に強い不快感を与え、左大臣・長屋王と藤原氏の関係には、いよいよ緊迫した空気が漂い始めました。長屋王対藤原4兄弟の対立。
729年2月、聖武天皇の元に「長屋王が国を傾けようと企んでいる」という讒言が。聖武天皇の皇子を呪詛して呪い殺した…という内容だと考えられています。長屋王は自害し、藤原氏が繫栄していくことになるわけです。
長屋王の変の事件に関しては、長屋王は冤罪であり、邪魔者を排除したい藤原氏の謀略だったというのが通説ですが、長屋王と親しかった大伴旅人が事件前後に一時的に大宰府に左遷されました。

橘奈良麻呂の乱 757年
橘奈良麻呂が藤原仲麻呂を滅ぼして、天皇の廃立を企てましたが、密告により露見して未遂に終わった事件。大伴古麻呂が獄死、大伴古慈悲は流罪。また、大伴家持は藤原仲麻呂の暗殺計画に関わっていたとされ、764年薩摩守に左遷されています。
藤原種継暗殺事件 785年
長岡京への遷都後間もない785年9月23日夜、桓武天皇の信任が非常に厚かった藤原種継は造宮監督中に矢で射られ、翌日薨去。暗殺犯として大伴竹良らがまず捕縛され、取調べの末、大伴継人・佐伯高成ら十数名が捕縛されて斬首となりました。事件直前の8月28日に死去した大伴家持は首謀者として官籍から除名されました。
その後、この事件は桓武天皇の皇太弟であった早良親王の廃太子、配流と憤死にまで発展。その後長岡京から平安京へ短期間のうちに遷都することになったのは、後に早良親王が怨霊として恐れられるようになったせいだと言われていますが、この一連の事件が原因のひとつになったとも。
823年、淳和天皇(大伴親王)の即位に伴い、同じ名前を使うのは恐れ多いということで、伴氏と改姓しました。
承和の変 842年
仁明天皇と藤原冬嗣の娘順子との間に生れ、当時の権臣藤原良房の甥にあたる道康親王を皇太子にするために起こった政治的陰謀事件。伴健岑が阿保親王の密告により謀反の疑いで突然逮捕され、首謀者として隠岐に流罪になりました。
これにより恒貞親王は責を問われて皇太子を廃され、道康親王が皇太子(のちの文徳天皇)となり、藤原氏による摂関政治が始まることになります。藤原氏が権力を握り、伴氏は衰退していきます。
応天門の変により、伴氏没落
さて、伴善男の祖祖父・大伴古麻呂は橘奈良麻呂の変に加わって逮捕され、激しい拷問の果てに獄死。祖父・大伴継人は藤原種継暗殺事件で種継を射殺したとして死刑にされ、父の伴国道もまた、元流刑者でした。善男も父が流刑されていた佐渡での生まれとされています。
このように犯罪者を出した家系として衰退の一途を辿っていた伴氏ですが、伴善男が仁明天皇の近侍となり、次第に重用されていくようになりました。
善愷訴訟事件 846年
846年善愷訴訟事件では、律令に反した訴訟の取り扱いであると、左大弁・正躬王を始め同僚の5人の弁官全員を弾劾し失脚させることに成功。また、かつて大伴家持が所有し藤原種継暗殺事件の関与によって没収されていた領地を、既に家持は無罪赦免されているのだからと、強引に返還を主張し成功。
その後は急速に昇進し、善男は848年に参議に列し、860年に中納言に昇格、そして864年には大納言に昇格。没落貴族であった伴氏から大納言が出たのは、大伴旅人以来130年ぶりの快挙。
漫画【応天の門】では、1巻からすでに「伴大納言」と呼ばれていますが、正確にはこの時点では中納言。途中で役職が変わっていくと判りづらくなるので、最初から「大納言」に統一したものと思われます。
政界で4番目の地位につけた理由としては
・善愷訴訟事件によって、現閣僚及び閣僚候補である弁官たちを一掃してしまったこと
・流行り病により、大納言源定・同源弘といった閣僚を含む多くの役人が亡くなったこと
・皇太后宮大夫・中宮大夫として藤原順子の強い信頼を得ていたこと
つまり、弾劾によって邪魔者を失脚させ、流行り病で多くの閣僚が亡くなり、そこへ皇太后の強い推しがあり、空いた官職をどんどん上っていくことができた、強い「運」と「コネ」、そして流行り病などに罹らない「体力」があったわけですね。この辺りが、漫画【応天の門】の舞台。
【応天の門】では、この辺りで藤原基経が伴氏の勢力をそぐために、伴善男の毒殺未遂を起こし、それによって道真が善男とかかわっていく、そういった段階。【応天の門】5巻のネタバレ・深読み

さてさらに次の官職を狙うとなると、右大臣。右大臣は藤原良相。藤原を叩くのはチト難しい。では藤原にとっても厄介な嵯峨源氏である左大臣・源信を排除し、良相を左大臣に、自分は代わりに右大臣にというのでまず、左大臣・源信に謀反の疑いあり、と訴えましたが、これは取り上げられませんでした。念のために力を削ぐということで、善男と良相が手を組んで、武芸に優れた従者を地方官として任命してしまいました。【応天の門 13巻】では、従者は土師忠道となっています。ここで道真とも敵対の構図が。
まぁ、ここで道真が伴善男に付かなかったことで、道真の政治への関わり方は藤原の方向へと流れていく感じで、出世の道筋がつき始めた感じですが。
さて、藤原良房が流行り病に罹り(【応天の門】14巻)、局面が変わってきます。良房が亡くなれば、太政大臣の後を継ぐのは弟の藤原良相が繰り上がるであろうと読んだのか、現左大臣の源信を排除すれば、自分がその後釜の左大臣に昇れると考えた伴善男が打った策は、お得意の讒言。
右より左の方がいいですよね、そりゃ。伴(大伴)氏から大臣が出るとなれば、初めての快挙ですし。
応天門の変 866年

866年潤3月10日、応天門が放火され全焼しました。善男は左大臣・源信が犯人であると告発。藤原良相の命により、源信の邸が近衛兵に包囲される騒ぎになるが、参議・藤原基経がこれを父の太政大臣・藤原良房に告げると、驚いた良房の清和天皇への奏上により源信は無実となりました。しかしこれ以降、源信は政治に見切りをつけ自宅に籠ってしまい、また良相も病気に。
8月3日、舎人の大宅鷹取が、応天門放火の犯人は伴善男・伴中庸親子であると訴え出ました。鷹取は応天門の前から善男と中庸、紀豊城の3人が走り去ったのを見て、その直後に門が炎上したと申し出たのです。鷹取の娘(漫画作中ではタマ)が善男の従僕・生江恒山に殺されたことを恨んでいたと言われています。
8月7日の取り調べで、善男は容疑を否認、無罪を主張しました。左右の大臣が出仕しないことで、大納言の処分の判断は太政大臣の良房に任されることになります。してやったりの良房の顔が浮かびますね。
そして同時に進められていた大宅鷹取の娘の殺傷事件の捜査に関連して、8月29日に伴中庸が左衛門府に拘禁され、同じく善男の従者である生江恒山・伴清縄らが捕らえられ厳しく拷問・尋問されます。その過程で鷹取の件のみならず、応天門の放火についても自供を始めたことで、善男への取調べが再開。
拷問を受けるも否定を続ける善男に対し「伴中庸が自白した」と偽りを言って自白を迫ったところ、善男は観念して自白したとの事です。死罪のところを、善男がかつて自分を抜擢してくれた仁明天皇のために毎年法要を行っていたという忠節に免じて、罪一等を許されて伊豆へと流罪になり、かの地にて死去しました(868年)。息子の中庸は隠岐に流されたほか、伴氏・紀氏らの多くが流罪に処せられ、これで政治の世界から消えることになります。
人物像
人物としては狡猾で悪賢く、傲慢で人と打ち解けることなく、性格は残酷。生まれつき人品が優れており、弁舌が達者で明察果断、政務にはよく通じており仕事は出来たようですが、優雅さには欠けていたようです。
容貌は、眼窩が深く窪んでおり、もみあげが長く、身体は矮小であった、「日本三大実録」に記されています。
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